マスコちゃんが夜中にこれを持ち出したにしては足音は聞こえなかったし、なにより自分から取り返したのならあんな妙な死に方はしないだろう。

そう疑問に感じた次の瞬間だった。
鏡の中をサッと黒い影が横切ったのが見えた。

夫人は青ざめたが悲鳴を上げることも鏡から手を離すこともできずに立ち尽くした。
鏡の中を横切った影は、間違いなくマスコちゃんその人だったから……。

☆☆☆

「この話には、割れた鏡から白い手が伸びてくるとか、顔に傷のある女が笑いかけてくるっていうパターンもあるんだよ、ワシが聞いた話はこの人影の話だったなぁ」

最後に吉春さんは懐かしそうにその話を締めくくってくれました。