ラミアが息を吐く。
それは火炎となり、俺たちを襲った。

「伏せろ!!」

とっさにルーナをかばう。
身を伏せると、炎が頭上を駆け抜けた。

「!?」

視線を外した隙に、ラミアが目前に迫る。
槍が振り下ろされようとしていた。

腹に血が滲む。
少し掠ったのだ。

だが、それは魔防から速さへの流動が間に合った証。
遅れていれば、串刺しだった。

「ルーナ、今すぐ避難しろ。火の粉が届かない距離まで」

「……分かった。ありがとう」

心配そうな表情だが、察しよく退避する。

……これで、奴に集中できる。

「鑑定《アプレイザル》」

魔力4000.....。ステータスに偏りなし。
つまり、弱点がなく一点突破は難しい。

「召喚《サムン》解除」

分身では歯が立たないと判断し、戻す。

「あら、お仲間さんは参戦しないの?」

「二人きりで戦うべきだと思ってな。それなら、告白を断ったお詫びになるだろ?」

挑発も込めて、建前を伝える。

「ふふっ、粋な計らいね。いいわ、二人きりの刺激的な時間を楽しみましょう?」

再び息を吐く。
今度は小刻みに。
複数の火炎が、別々の方向から迫る。

(くそっ。避けられなきゃ、速さは意味がねぇ)

その刹那、大量の火が降り注ぐ。

辺り一面が真っ赤に染まる。
呼吸のたび、肺が焼けそうだ。

……何とか魔防に振ったが、休む暇もない。奴はすぐに別の攻撃を仕掛けるハズ。

「!!」

来た。
炎で視界が悪い中、気配が。

とっさに魔力の半分を防御に回す。
構えた瞬間――

目の前の炎が裂けた。

(槍だと!?)

勢いよく迫る槍は、炎と一緒に俺を吹き飛ばす。

「はあ~い。私はこっちよ」

背後から忍び寄るラミア。
拳が迫る。

「あぐっ!」

殴られる前に槍を外し、カウンターを放った。
槍のリーチの方が、勝ったので反撃に成功する。

魔力を攻撃に回し、槍に力を込める。

「あ……あ」

よし、このまま腹を貫く――

奴の口から赤い炎が広がる。それを見て、すぐに距離を取った。
当然、速さに切り替えた上で。

「ふふっ、残念ね。私に致命打を与える絶好の機会だったのに」

余裕ぶっているが、表情には少し焦りが見える。

……とはいえ、追い詰められているのは俺の方。

(チャンスが来ても、踏み込めねぇ)

攻撃に対応するには、守りに徹するしかない。
つまり、攻めに出る余裕がない。

ステータスの切り替えに時間がかかるせいだ。
何か方法はないか……。

「間近で見て、分かったことがあるわ」

ラミアが迫る。

「あなたの能力、魔力を流すことでしょ?」

奴の手から炎が放たれる。
すぐに魔防へ流し、熱を受け止める。

「ほら、微かに”流れ”を感じるわ」

奴が背後に回った。

「魔力を貸し借りできるのも、相手を介して流せるから?」

……こいつ、洞察力が異常だ。

ラミアが槍を振る。
俺は防御の構えを取った。
そして──さらに接近したその瞬間、

「黒炎流波」

最大火力の魔法を放つ。

「あ゛っつ──」

守りに回ったと思わせておいて、あらかじめ魔法に全振りしていた。

「っ!!」

ラミアはすぐに離脱。
掠ったが、直撃は避けたようだ。

「盲点を突くなんて。侮れないわね」

肩で息をしている。
だいぶ消耗したか。

「でも、勝つのは私よ。……あなたの能力は、もう見切った」

「……それは興味深いな。ぜひ理由を聞かせてくれ」

ラミアは舌なめずりをして、口角を上げる。

「ステータスを切り替えるとき、体内に能力を架けているわね?」

見事だ。この短時間で、そこまで見抜くとは。

「……貸し借り、どちらの能力かまでは分からないけれど」

「!!」

思わず笑みが漏れる。
その言葉で、逆転の糸口が見えた。

「……で?それが分かったのと、俺の負けにはどう繋がる?」

「簡単な話よ。あなたの内側の流れ方を見れば、どのステータスに振っているかが分かる」

ラミアがエネルギーを纏い始めた。

「つまり、ガラ空きのステータスを狙えるってこと」

両手から広範囲の炎が放たれる。
俺の距離を超えて、火の波が迫る。

そして、両腕を閉じた。
左右から炎が挟み撃ちに。

周囲は火の嵐に包まれる。

逃げ道は上空だけ。
見上げると――

「……!?」

すでにラミアが、上から迫っていた。

「名残惜しいけど、楽しい時間はこれで終わりよ!」

絶体絶命に追い込んだ。
....と奴は、思っているんだろう。

魔力の流れが間に合わないのなら....。
流れを”2本”にして速めるだけだ。

俺は体の内側にリース&バンスを架けた。