俺はあらかじめ、入り口付近に木をばらまいておいた。
魔物に寝込みを襲われないためだ。

それが鳴ったということは、近くに魔物がいる証拠。

一度、大きく息を吸う。

昨日は利子返済を優先したため、スキルの検証は後回しになった。
だが今は返済の余裕がある。
今日はスキル検証に時間を充てられそうだ。

俺は洞穴の入り口に近づき、その近辺で身を潜めた。
外の様子をうかがう。

……予想通り、魔物がうろついている。
トカゲの頭と人型の体を持つ魔物、リザードマンだ。

「......あれ?」

おかしい。
俺はてっきり奴が、木の枝を踏んだと思っていた。
しかし、手前の枝よりも離れた場所に魔物はいる。

......だとしたら、一体だれがこの枝を鳴らした?

.........................。
考えても思い浮かばない。

「グルゥ!!」

リザードマンの咆哮。
ともかく、今は目の前のことを対処するしかねぇな。

奴はまだ俺の存在には気づいていないようだ。
それなら――

力の前貸し(バンス)

隠れたままスキルを発動する。
これが成功すれば、戦わずして利子を稼げる。
相手が気づかぬうちに、莫大な負債を背負わせることも――

《対象の相手が貴方を認知していない為、前貸しの契約が成立しません。》

契約が成立しない。
スキルには“フェア”な条件があるということか?

少なくとも、隠れた状態では発動できないことが分かった。

なら次は――

「グルゥッ!?」

リザードマンの前に姿を現す。
だが、あえてすぐにはスキルを使わず――

一気に間合いを詰め、

「グアァァァァァァ!!!!」

剣で魔物の腹を斬る。
事前に全魔力《202エナジー》を攻撃ステータスに集中させておいた。
大ダメージは確実だろう。

検証は次の段階へ。
相手を弱らせた状態で――

「力の前貸し《バンス》」

前貸しの弱点は、敵の強化。
すでに弱っていれば、戦況はそう簡単に覆らないはず。
自分の魔力が相手に流れていく。
片目にプロンプトが浮かび、流れる魔力量が表示される。

10……30……。

だが、貸し出しは30で止まった。

「……は?」

自分で止めたわけではない。
スキルが自動で終了させたのだ。

「……。」

原因を考える。
今までは、保有する魔力の範囲で自由に貸せた。
つまり、今回がイレギュラー。

「相手を弱らせてから前貸しを使った……」

逆に、以前は戦闘前――
相手のHPが満タンに近い状態で使っていた。

「まさか、前貸しできる魔力量は、相手のHP残量と関係が?」

そうなると、弱った敵に前貸しする意味は薄い。
前貸しで得られる魔力は「利子の高さ × 貸し出す量」で決まる。
貸し出し量を最大にするには、万全な敵を強化するしかない。

「……劇的な成長には死が隣り合わせってか」

ハイリスク・ハイリターンの道。
復讐のためには、強大な魔力が必要だ。
だから危険は避けて通れない。

だが――

「望むところだ」

恐怖はない。
レベルが永久1の俺にとっては、どんな魔物も格上だった。
だからこそ、命をかけた戦いは日常にすぎない。

……足音が複数、近づいてくる。
仲間の血の匂いを嗅ぎつけたのだろう。

「グルゥアアアアアアアアアアアア!!!!」

5匹のリザードマンが乱戦を仕掛けてくる。
俺を囲むように輪を作った。

「どこからでもかかってこい。いつも通り乗り越えて、お前らの魔力をすべて回収してやる」

    ▽

「回収《レトリーブ》」

魔力をすべて狩り取る。
300近く増加した。

……今回の戦いを振り返る。

まず、輪を組んだリザードマンの1匹に力を前貸しした。
力が増したリザードマンは興奮し、最初に俺を襲おうとする。

そのとき、俺は仲間のリザードマンの近くまで誘導した。
そして、スピードステータスに全魔力を集中させ、攻撃を回避。
その一撃が仲間に直撃した。

そこから決着までは早かった。
リザードマン同士で仲間割れが始まる。
俺は、特定の個体が有利になるよう再び前貸し。

互いを潰し合い、最後に残った1匹を俺が倒した。

だが、課題もある。

腕のかすり傷に触れる。
リザードマンの反撃で受けた傷だ。
ステータス変動で交わそうとしたが、その切り替えの隙を突かれた。

「やっぱ……変動時には隙が出る」

わずかな隙。
されど、戦闘では命取り。

それに――

「まだ理想の動きには届いていない」

理想は、敵の動きに合わせて即座に、ステータスを変動させること。
だが、今のままでは無理だ。
変動のたびに隙が生じてしまう。

何か、打開策はないか――

サバババッ。

「……この音は」

歩きながら考えていたとき、かすかに滝の音が聞こえた。

意識した途端、急に喉が渇く。
持参していた水は昨日のうちに飲み干していた。
それ以来、水は口にしていない。

歩きが、走りに変わる。

ざぶざぶと響く滝の音。

「はぁ……はぁ……。水だ」

滝壺にたどり着くと、俺は夢中で水を飲んだ。

乾いた喉が潤い、体に活力が戻る。
魔境の森は蒸し暑く、冷たい水がひときわありがたい。

ザババババババ!!!!
バシャッ……

「……?」

滝の音に混じる、水を弾く音。
俺の動きではない。

誰かがいるのか?

音のした方に目を向けると――

そこには、女が湯浴みをしていた。

「……桃髪」

脳裏に、あのポーションがよぎる。

誰かがいるのか?

音のした方に目を向けると――

そこには、女が湯浴みをしていた。

「……桃髪」

脳裏に、あのポーションがよぎる。