卒業式の前週。
真は、教室の窓際でじっと空を見ていた。
(今日、ちゃんと伝えよう)
そう、決めていた。
掃除当番は、今日が最後。
愛花と同じ空間に立てるのも、たぶん今日が――最後。
何を言えばいいのか、正直まだわからない。
それでも、「ありがとう」だけは言いたかった。
そして、もし言えるなら「好きでした」も。
だけど――
「えっ、マジで熱あるだろ、お前……?」
陽が、真の額に手を当てる。
その手が、やけに冷たく感じた。
頭がぼーっとして、足元がふらつく。
喉も痛い。目も霞む。
(……なんで、今日なんだよ)
ベッドの中、カーテンの隙間から差し込む光が、やけに遠く感じた。
ミサンガを結んだ左手を見つめながら、真は唇を噛んだ。
このまま何も言えずに終わるのは嫌だった。
だから、ノートの端を破って、短い手紙を書いた。
今まで、一緒に掃除してくれてありがとうございました。
先輩と過ごした時間、本当に嬉しかったです。
先輩の笑顔が、ずっと大好きでした。
折りたたんで、封もせず、そのまま陽に託す。
「……頼んだ」
「おう。任せとけ」
その日、掃除の時間。
ベランダには、愛花と陽がいた。
陽は言葉少なに、ポケットから手紙を出して差し出す。
「……これ、真から」
愛花は一瞬だけ目を見開いた。
でも、黙って手紙を受け取り、そっと開いた。
風が、ページをめくるようにゆるやかに吹いた。
字は少し震えていて、でも、真っ直ぐだった。
愛花は読み終えると、しばらく無言で立ち尽くしていた。
そのまま手紙をゆっくり折りたたみ、制服の胸ポケットにしまう。
そして、何も言わず――空を見上げた。
沈黙のなかで、陽がちらりと彼女を見やる。
愛花の髪が、夕陽に照らされてきらめいていた。
(……伝わってるといいな)
陽は、そう思いながら視線をそらした。
その日以降、真と愛花は、顔を合わせていない。
でも、真の左手にはまだ、青と白のミサンガが残っていた。
切れずにいるその糸が、どこかでつながり続けているような、そんな気がしていた。
過去編 … 完
真は、教室の窓際でじっと空を見ていた。
(今日、ちゃんと伝えよう)
そう、決めていた。
掃除当番は、今日が最後。
愛花と同じ空間に立てるのも、たぶん今日が――最後。
何を言えばいいのか、正直まだわからない。
それでも、「ありがとう」だけは言いたかった。
そして、もし言えるなら「好きでした」も。
だけど――
「えっ、マジで熱あるだろ、お前……?」
陽が、真の額に手を当てる。
その手が、やけに冷たく感じた。
頭がぼーっとして、足元がふらつく。
喉も痛い。目も霞む。
(……なんで、今日なんだよ)
ベッドの中、カーテンの隙間から差し込む光が、やけに遠く感じた。
ミサンガを結んだ左手を見つめながら、真は唇を噛んだ。
このまま何も言えずに終わるのは嫌だった。
だから、ノートの端を破って、短い手紙を書いた。
今まで、一緒に掃除してくれてありがとうございました。
先輩と過ごした時間、本当に嬉しかったです。
先輩の笑顔が、ずっと大好きでした。
折りたたんで、封もせず、そのまま陽に託す。
「……頼んだ」
「おう。任せとけ」
その日、掃除の時間。
ベランダには、愛花と陽がいた。
陽は言葉少なに、ポケットから手紙を出して差し出す。
「……これ、真から」
愛花は一瞬だけ目を見開いた。
でも、黙って手紙を受け取り、そっと開いた。
風が、ページをめくるようにゆるやかに吹いた。
字は少し震えていて、でも、真っ直ぐだった。
愛花は読み終えると、しばらく無言で立ち尽くしていた。
そのまま手紙をゆっくり折りたたみ、制服の胸ポケットにしまう。
そして、何も言わず――空を見上げた。
沈黙のなかで、陽がちらりと彼女を見やる。
愛花の髪が、夕陽に照らされてきらめいていた。
(……伝わってるといいな)
陽は、そう思いながら視線をそらした。
その日以降、真と愛花は、顔を合わせていない。
でも、真の左手にはまだ、青と白のミサンガが残っていた。
切れずにいるその糸が、どこかでつながり続けているような、そんな気がしていた。
過去編 … 完
