「最近、お姉ちゃんが家にいてくれて嬉しい」

そう言って抱きついてくる妹、椛を抱きしめる。

すっかり抱き癖ついちゃったな・・・
そう思いながらも頭を撫でる。

母親がいなくなってから、椛は夜よく泣いていた、
その時、泣き止むまでずっと抱きしめていて、
その後も、寂しそうにする度抱きしめていたので、
すっかり甘え癖がついてしまったのだ。

でも、こうして甘えてくれる事が嬉しいと思う。

1人で寂しさを抱えているよりよっぽどいい。

椛は高校3年生。
成績は良く、可愛くて、素直で、自慢の妹だ。

将来の進路については、しっかりと聞けていない、
高3なのだし、とっくに決めていてもいいのだが、
いろいろ本人も複雑な気持ちもあるようで、
どう?とだけ軽く言って、
後は自分から言ってくれるのを待とうと思っている。

「今の仕事1つだけになったから、
 けっこう時間に余裕ができてるからね」

「鷹村様様だねぇ」

図書館に行くのを、辞めた訳ではないが、
金銭的に余裕ができたので、スマホのギガを使いたい放題にして、
家でレシピを検索できるようにしたのも大きい。

前までは、できるだけスマホを使わないようにしてたのに、
スマホが見放題になったら、世界が変わったようだ。

同じ料理でも、作り手によってレシピが微妙に違い、
ああ、この調味料でも対応できるんだと、
かなり勉強になっている。

「どこか行きたい所か、やりたい事ある?」

喫茶店かゲーセンかな?と思いながら椛に聞く。

「アメリカに行きたい・・・」

「アメリカ?」

あまりにも予想外の返答に、きょとんとしてしまう。

「ごめん!何でもない!
 それよりお姉ちゃんの作ったチーズケーキ食べたい!」

「またチーズケーキなの?」

椛にせがまれて、2か月に1度は作っている気がする。

「だって美味しいんだもん!」

「はいはい、外出はいいの?」

「うん、家にいる方がいい」

「お姉ちゃん、今けっこう稼いでいるのよ?」

「自分の為に使いなよ」

「私は十分!」

「そんな事言って、老後知らないよ?」

「老後?ずいぶん先の話ね」

「その前に結婚か、ねえ、鷹村さんはどうなの?」

「それはない!前に言ったでしょ、
 そのせいで何人も辞めているって!」

「ちぇ、もったいない」

いっぱい抱き着いて、満足した椛が離れて行くのを見ながら、
それはないよねと自分に言い聞かせていた。