夜を導く光、それは赤い極道でした。


 澪の純粋な疑問に3人は少しだけ言葉に詰まる。これが普通の世界なら、何も言うまい。憧れるのあるよねと楽しい恋バナで盛り上がるだけ。

 

「あかんよ」

 けれど、ここはそうではない。

「澪とは住む世界がちゃう」

「極道だからですか?」

 凛は頷く。その瞳は先程までとは違い、真剣。澪を射抜こうとする。

「あんたは、ただ一時的にここにおるだけや。ゴタゴタさえ片付けば綺麗さっぱり元の世界へ帰れる。帰った方がええんや」

「そうしたら、みなさんとは……」

「会えるわけないでしょ」

 栞がピシャリと言い放つ。澪とは目を合わさず、淡々と言葉を紡いでいく。

「子どもが来るようなところじゃないの。こんな狭い世界」

「今親しくしていても、すべてが消えるということです?」

「私たちはね、()()てるの。あなたとは違って」

 栞の声音は冷たい。澪は千代子に目を向ける。眉を下げて助けを乞うような表情だった。

「千代子ママも、そう思いますか?」

「そうね……澪ちゃんには、このまま……綺麗なままでいてほしいわ」

 誰も味方にはならない状況に澪は思わず唇をぎゅっと結ぶ。こんなに反対されるなんて……これではまるで、シンデレラの義母や義姉のようだ。

 もちろん、3人が意地悪で言ってはいないことは理解できる。けれど、こんなにも頭ごなしの拒否。はい、そうですかと澪が簡単に頷くわけもない。


「でも、お凛さんは一般人だったんでしょう?」

 凛を見つめて澪は切り出す。澪が何を言おうとも心を変える気はないのか、凛の瞳は鋭いまま。

「せやな」

「なら、私と条件は同じじゃないですか?どうして私はダメで、お凛さんは……」

「澪」
 
 その声音は、静かなのに背中にのしかかるような重さがあった。


 

「この世界、舐めるんも大概にせぇよ」

「っ……」

 突き刺すような言葉。澪は怯んでしまうが、見逃すような優しい者はいない。寧ろ、ここでキッチリ線引きをさせる方が澪の為。そう三人は思っている。
 

「極道の男と添い遂げるっちゅーことはな、生半可な覚悟じゃあかんねん」

「危ないから、ですか?」

「危ない……そら、そんな一言で片付くなら楽やろな」

 凛は鼻で笑う。千代子と栞もそれぞれ何か思うことがあるのだろう。険しい顔つきだった。

 

「骨折や切り傷の怪我ならまだええ。ひん剥かれて輪姦(まわ)されて、薬でも飲まされて。ああ、売り飛ばされることもあるやろなぁ。5体満足じゃ飽き足らず、部分だけとかな」

「え……それって、」

「生きたまま海に投げられ、生き埋めも普通にあるで?そういう意味での()()()って、想像したことないやろ?」

 薄い笑みを浮かべる凛に、澪は息が詰まる。緊張からか手足が震えた。何も攻撃は受けていない。なのに、刺すような視線が息苦しくさせる。

 それは、凛に対してだけではない。栞と千代子からも射抜くような視線が送られる。

 澪は、ようやく気づく。この人たちは自分とは違う……常に危険と隣り合わせの世界で生きている。その覚悟をもって、嫁いできたのだと。


 
「っ……わたし、その」

 澪はここにいるのが急に怖くなった。3人は優しい人なのに、今目の前にしている人物はまるで知らない人たちに思えて……。

 

「……トイレに行ってきます!」

「澪っ!」

 静止の言葉も聞かずに逃げるように部屋を後にした。


 ******

  トイレについて鏡に映る自分を見る。そこには情けない顔をした女の子。こんな表情で3人を見つめていたのかと思うと、澪は胸が苦しくなった。

 たくさん優しくしてもらい、自分から踏み込んだのに……一人で傷ついたような反応をしてしまったことを酷く悔やむ。

 あの厳しい言葉は、優しさなのだと。自分の考えが甘くて何もわかっていなかったから伝えてくれたことなのだと澪は今になってわかる。

 そうだ、元はといえば自分が王子様なんかを思い浮かべたからいけない。シンデレラの夢。それは本当にただの気まぐれの、思いつきの、可愛い夢。
 それなのに、この非日常の世界でもしかしてを想像してしまった。

 そんな、愚かな妄想が……あの人たちを心配させて、余計なことで傷つけた。

 謝ろう。ちゃんと、精一杯。

 そう澪が意気込んで、女子トイレの扉を開ける。部屋まではドリンクコーナーを曲がってすぐ。
 
 しかし、通路を塞ぐように立っている男性が複数いた。澪は邪魔だなと思いながら、スマホ片手に喋っている彼らの横を「すみません」と声をかけて通りすぎる。

「あれー?こんな遅くに子ども一人?」

 それは澪の前に急に現れた。

「ダメだよ?こんなところに遊びにきたら」

「そうそう、悪ーい大人に捕まっちゃうし」

「それ俺らのことね、ぎゃはははは!」

 前も後ろも逃げ場がない。20代くらいだろうか?その男たちの圧に澪は面食らう。

「はい、とりあえず」

「っ……離してください」

「だーめ。ていうか──」

 


 “つかまえた”

 

 その言葉の意味が澪にはよくわからなかった。恐る恐る顔を向けると、下卑た笑みを浮かべられる。


 ────

 純粋な瞳が映すのは
 光だけじゃない影の世界
 言葉の刃が胸を切り裂くけれど
 その痛みは、守るための誓い

 揺れる心、逃げ出す声
 でも君の中の灯は消えない
 傷つき、砕け、泣いたとしても
 未来はまだ君の手の中にある
 

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