《轟焔》の5人が、わたしの前に立った。
まるで、檻の中から抜け出そうとする小鳥を守るように。
あるいは、たったひとつの花を取り合う野生の獣のように。
――どうして。
どうして、こんなにも真剣な瞳で、わたしを見つめるの?
怖いくらいだった。
嬉しくて、怖い。
こんな気持ち、知らなかった。
◆
「……お前、帰るの怖ぇなら、今夜うち来る?」
放課後の裏庭。
蓮が不意に、そう言ってきた。
「は、はぁ!? いきなり何言って――」
「別に変な意味じゃねぇよ。
お前の家、今ピリついてんだろ。響って奴もいる。気抜けねぇ」
たしかに、家は今、息が詰まりそうな空気だった。
父は無言で書類をめくるばかりで、母は義務的な声しかかけてこない。
響真澄の影が、家の中の空気を歪ませていた。
「でも……」
「一緒にいれば、怖くねぇ。俺、そう思ってる」
――ああ、もう。
ずるいんだ、みんな。
わたしの心が、ゆっくりとほぐれていく。
◆
蓮の家は、意外にも清潔感があった。
灰皿はあるけど、部屋は整っていて、どこか家庭的な匂いがした。
「姉ちゃんがうるせぇんだよな。掃除してから出てけって」
「……お姉さん?」
「今は別のとこに住んでるけどな。
昔は、俺のこと、ガチで更生させようとしててさ。うざかった」
わたしはふっと笑った。
「……家って、そういうものかもね。
息が詰まるけど、それでも、帰る場所だから」
蓮が、ちらりとわたしを見た。
「俺んとこは、帰っていいよ。いつでも」
その言葉は、たぶん照れ隠しだった。
だけど、わたしには十分すぎるくらい響いた。
それから少しして――
ソファで横になっていたわたしは、いつの間にか眠っていた。
夢の中、誰かが毛布をかけてくれて、
そっと髪に触れた気がした。
やさしくて、どこか切ない手つきだった。
◆
目が覚めると、蓮はいなかった。
リビングのテーブルに、手書きのメモだけが残っていた。
『ちょっと出てくる。鍵かけて待ってろ。
怖くなったら、玲央のとこでも凪のとこでも行け。
でもできれば、また俺んとこ帰ってこい。』
不器用で、真っ直ぐで、
でも、確かに“わたしの帰る場所”みたいなその字が、
胸にじんわり染みこんでいく。
――こんなにも、人を想ってくれる人たちがいて。
わたしはもう、とっくに。
誰かを、
好きになりかけていた。
でも、それはきっと、間違いだ。
だってわたしは――
“誰のものにもなっちゃいけない”はずだから。

