《轟焔》の5人が、わたしの前に立った。
 まるで、檻の中から抜け出そうとする小鳥を守るように。
 あるいは、たったひとつの花を取り合う野生の獣のように。

 

 ――どうして。
 どうして、こんなにも真剣な瞳で、わたしを見つめるの?

 

 怖いくらいだった。
 嬉しくて、怖い。
 こんな気持ち、知らなかった。

 



 

 「……お前、帰るの怖ぇなら、今夜うち来る?」

 

 放課後の裏庭。
 蓮が不意に、そう言ってきた。

 

 「は、はぁ!? いきなり何言って――」

 

 「別に変な意味じゃねぇよ。
 お前の家、今ピリついてんだろ。響って奴もいる。気抜けねぇ」

 

 たしかに、家は今、息が詰まりそうな空気だった。
 父は無言で書類をめくるばかりで、母は義務的な声しかかけてこない。
 響真澄の影が、家の中の空気を歪ませていた。

 

 「でも……」

 

 「一緒にいれば、怖くねぇ。俺、そう思ってる」

 

 ――ああ、もう。
 ずるいんだ、みんな。

 

 わたしの心が、ゆっくりとほぐれていく。

 



 

 蓮の家は、意外にも清潔感があった。
 灰皿はあるけど、部屋は整っていて、どこか家庭的な匂いがした。

 

 「姉ちゃんがうるせぇんだよな。掃除してから出てけって」

 

 「……お姉さん?」

 

 「今は別のとこに住んでるけどな。
 昔は、俺のこと、ガチで更生させようとしててさ。うざかった」

 

 わたしはふっと笑った。

 

 「……家って、そういうものかもね。
 息が詰まるけど、それでも、帰る場所だから」

 

 蓮が、ちらりとわたしを見た。

 

 「俺んとこは、帰っていいよ。いつでも」

 

 その言葉は、たぶん照れ隠しだった。
 だけど、わたしには十分すぎるくらい響いた。

 

 それから少しして――
 ソファで横になっていたわたしは、いつの間にか眠っていた。

 

 夢の中、誰かが毛布をかけてくれて、
 そっと髪に触れた気がした。

 

 やさしくて、どこか切ない手つきだった。

 



 

 目が覚めると、蓮はいなかった。
 リビングのテーブルに、手書きのメモだけが残っていた。

 

 『ちょっと出てくる。鍵かけて待ってろ。
 怖くなったら、玲央のとこでも凪のとこでも行け。
 でもできれば、また俺んとこ帰ってこい。』

 

 不器用で、真っ直ぐで、
 でも、確かに“わたしの帰る場所”みたいなその字が、
 胸にじんわり染みこんでいく。

 

 ――こんなにも、人を想ってくれる人たちがいて。
 わたしはもう、とっくに。

 

 誰かを、
 好きになりかけていた。

 

 でも、それはきっと、間違いだ。

 だってわたしは――
 “誰のものにもなっちゃいけない”はずだから。