「ゼイン!?」
「俺の幸せを勝手に決めつけないでいただきたい。俺の幸せはあなたの側にいることだ。俺がどんな思いで今まであなたの側にい続けたと思っているんですか。ああ、もう、貴族たちの話はぜったいにエリシア様の耳には入れたくないと思っていたのに、案の定こうなった。だから嫌だったんだ」

 ぎり、とエリシアの肩を掴む指が肩に食い込む。

「もうこの際だから言いますが、俺はずっとずっとあなたのことを慕っていました。騎士と聖女、報われない恋だと思っていたし、あなたを困らせるだけだと思ってずっとしまい込んでいた。でも、貴族たちが最近やたらと縁談を持ち掛けてきて、うっとおしかったんですよ。まるで俺とあなたを引き裂かんといわんばかりだ。だったら、あなたの耳に話が入ってしまう前に、あなたに手を出して既成事実を作ってしまおうと思った。そうしてしまえば、聖女に手を出した最低な騎士だと貴族たちに思われるでしょう。もう、そうするしか手はないと思った」

 いつもは爽やかな美しい若草色のゼイン瞳が、今日はドロリと熱い欲をはらんでいる。

「でも、あなたに無理矢理手を出すなんてことは絶対にしたくない。そんなこと、俺自身が許せない。だから、あなたとの距離を近くして、あなたに俺を意識してもらおうと思いました。少しずつ、確実にそれができていると思ったのに……もう、それも必要なくなってしまった」

 クククッと自嘲的に笑うと、ゼインは悲しそうな目でエリシアを見る。そして、エリシアの後頭部にそっと片手を添えると、一気にエリシアの唇にかぶりついた。

「!?」

 そのまま、ゼインはエリシアに熱烈なキスを浴びせ、唇を離すと辛そうな表情でエリシアを見つめた。

「エリシア様、俺を、受け入れてくれませんか。俺はあなたの側を離れる気はありません。あなたが俺を拒んでも、俺を手放そうとしても、俺は絶対にあなたから離れない。だからお願いだ、俺を受け入れて」

 悲しそうにそう言って、ゼインはまたエリシアの唇へ自分の唇を重ねようとする。