推しに告白(嘘)されまして。





「だ、大丈夫、デス。ありがとう、悠里くん」

「いえいえ」



悠里くんから急いで離れて、ぎこちなくお礼を口にする。すると悠里くんはその瞳を優しく細めた。



「ここ、掴まって」



それから自身の左腕を私に差し出してきた。
昨日までの私なら、「何て私は幸せ者なんだ!推しの腕に掴まれるなんて!」と大喜びして、悠里くんの提案を受け入れただろう。
だが、今は違う。
私はもう悠里くんの彼女ではない。
気軽にそんなことを許される存在ではないのだ。



「ありがとう、悠里くん。でも私、もう悠里くんの彼女じゃないから…」



そう言って、私は遠慮がちに笑った。
お気持ちは大変嬉しく、天に召される気分なのですが、という思いを胸に秘めながら。



「柚子、寝不足なんだよね?だからフラついたんだよね?それって俺のせいじゃん。だから責任取らせて欲しい」



悠里くんが真剣な表情で私をまっすぐ見据える。
その瞳には強い思いがあり、揺らぎそうにはない。
むしろ私の方が推しからの誘惑にぐらぐらと揺れ、今にも負けてしまいそうだ。

いや。いやいやいや。
ダメだダメだ。
私は昨日、悠里くんと別れたのだ。
何度も言うが悠里くんに甘えることを許される立場ではないのだ。

責任なんてものは悠里くんにはない。
悪いのは全て私だ。

眉間にシワを寄せ、一生懸命煩悩と戦っていると、そんな私なんて無視して、悠里くんが私の瞳を覗き込んできた。
甘く、焦がれるような瞳で。