推しに告白(嘘)されまして。





「ほら、こっち向いて、千晴」

「はぁい」



負けたと言わんばかりに眉を下げ、千晴の口元まで、水を運ぶ。
すると、千晴は嬉しそうにその口元を緩めた。

コップのふちを千晴の下唇にゆっくりと当て、様子を見ながら傾けてみる。
動き始めた水に千晴は目を伏せて、ゴクゴクと喉を鳴らし始めた。

長いまつ毛が綺麗な千晴の顔に影を落とし、私がコップを傾けるたびに喉仏が動く。
ゆっくりと私の手から水を飲む千晴が何故かとても色っぽくて、私は息を呑んだ。

な、何で水を飲んでいるだけなのに、こんなにも色気があるんだ。

ドキドキしながらも、水を半分飲ませたところで、一度、コップを千晴から離す。
水で光る形の良い唇に、私の心臓はまたドクンッと大きく跳ねた。

あの唇に、私、キスされたんだよね…。
…て、ダメだ!ダメだ!

頭の中を一瞬支配した煩悩に、私は両目をギュッと閉じ、首を横に振る。

私は悠里くんの彼女!
彼氏の隣で何考えているんだ!私!
千晴はただの後輩だ!

ダァンッ!と勢いよく千晴のおぼんにコップを置き、深呼吸をする。
それから「…全く、本当に手のかかる」と迷惑そうに吐き出すと、スプーンを再び手に取った。

私はただ手のかかる後輩に水を飲ましていただけだ。
そこに何か特別な感情があるわけではない。

自分にそう言い聞かせながら、やっとスプーンにすくわれていたカレーを口へと運ぶ。
広がる味は馴染みのあるもので、普通に美味しい。
バクバクとうるさく鳴っていた心臓はカレーを咀嚼するごとに、少しずつ落ち着きを取り戻していった。