推しに告白(嘘)されまして。





「節分は来週だもんね。その後の大事な日って一体…?」



顎に手を当て思案を続けるが、まるで何も思い浮かばない。
何度も何度も首を捻る私に、雪乃はまた呆れたように笑った。



「バレンタインじゃん。再来週の月曜日。きちんと両思いになれたんだし、気合いの入ったチョコあげないと。…で、甘いひと時を過ごす、みたいな」

「あ、あー。バレンタインか」



すっかり私の中では封印されていたイベントなので、完全に忘れていた。
料理下手な私にとって、あれは恋の甘いイベントではなく、私のとんでも料理の生贄が選ばれる日なのだ。
バレンタインで、何度お父さんに走馬灯を見せてきたことか。

流石に推しに三途の川を見させるわけにはいかない。
ネットでどこかのホテルのシェフが作った超高級チョコレートを購入しよう。
大丈夫、お金ならまだ千晴の家でいただいたバイト代がある。



「私は適当に何か作ってあげる予定だけど、柚子はやっぱり買う感じ?チョコ」

「うん。そう。それが一番安全だし」

「確かに。それはそう」



雪乃の質問に、至極当然のように答えた私に、雪乃は深く頷いた。
それから私たちはいつも通り他愛のない会話を続け、かなり余裕を持って、移動教室へと着いたのだった。