すぅ、と息を大きく吸い、自分を落ち着かせる。
そんな私に「が、頑張ってくださいっ」と、必死にエールを送る、お姫様役だった男子生徒の声が耳に入った。
ーーーやるぞ。
意を決して、カツンッと床を踏み締める。
それから舞台上へと出た私に、パッとスポットライトが当たった。
一瞬だけ、私の登場に会場が静寂に包まれる。
「て、鉄子ぉぉぉお!!!??」
しかしそれはほんの一瞬で、すぐに誰かがそう興奮したように叫んだ。
そしてそれを皮切りに、会場は驚きと興奮に包まれた。
「ええ!?まさかのクラス外から!?」
「しかも鉄子って!」
「怖いけど美人だもんな!」
「千晴くんの相手なら確かに鉄子先輩しかいないよね!」
舞台上にもはっきりと聞こえてくる観客の様々な声に、思わず苦笑いを浮かべる。
とりあえずは歓迎されているようで何よりなのだが、本人の目の前でそのまま鉄子と呼ぶとは。
鉄子呼び慣れているけれども。
期待と好奇の視線に晒されながらも、ゆっくりと千晴が眠っている棺桶へと向かう。
ぎこちなくならないよう、私は意識して、鬼の風紀委員長モードになった。
このモードになれば、私は無敵だ。
少々のことでは、緊張しないし、強くいられる。
それでも、この多すぎる注目の視線は、私の足を緊張のツルで縛った。
一歩、一歩、確実に進んでいるのだが、その一歩がとても重い。
…大丈夫。大丈夫だよ、私。
そう、必死に言い聞かせながらも、ふと、観客席の方へと視線を向ける。
すると、その中で輝く存在を見つけた。



