バクバクとうるさい心臓を抑えて、私は再び、オムレツを食べ始めた。
頬の熱が一向に引かない。
「美味しい?」
悠里くんに優しくそう問われて、こくこくと何度も何度も頷く。
口にオムレツが入っている為、言葉を出せない。
「…ふふ。セーラー服の柚子、新鮮だね。似合ってる。可愛い」
「ぅ、ふぅぇ」
その流れのまま、優しく、そして何よりも、甘くそんなことを言われた為、私は口からオムレツを吐き出しそうになった。
もちろん、必死に止めたので、吐き出されることはなかったが。
とんでもない存在である。
食事中にしていい行為ではない。
死んでしまう。私が。
「や、やばいね…」
「破壊力しかないね」
「さすがの鉄子もなすすべなしか」
「あれは反則だろ」
「やっぱり付き合ってるんだなぁ、あの2人」
どこか甘い雰囲気の私たちに、吸血鬼カフェにいる人たちは静かに注目していた。
全員からの視線が痛いが、いつものことなので、あまり気にはならない。
オムレツを食べ続ける私に、それを隣で見守る悠里くん。
何だかだんだん今の状況が申し訳なくなってきた私は、伺うように悠里くんを見た。
「悠里くんもこれ食べる?」
「え?」
私の提案に悠里くんが驚きの表情を浮かべる。
まさかこんなことを言われるとは思いもしなかったのだろう。
「私だけ食べてるのなんか申し訳ないし、悠里くんも一緒に、ね?」
「…いや、いいよいいよ。柚子のオムレツだし」
何とか食べてもらいたくて、じっと悠里くんを見るのだが、悠里くんは頬を少し赤らめて首を横に振るだけで。
全く食べてくれる気配がない。
悠里くん、優しいもんね。
きっとこのままだと食べてくれないよね。



