かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

不幸に見舞われた我が家への久我ホールディングスの厚情を、母はその後折りに触れて聞かせてくれた。
遺族年金に加えて、社員から見舞金を募ってくれたこと。
母をいっときパートタイムで雇用してくれたこと。
おかげで遺された祖母、母、わたしは生活に困窮することはなかったのだ。
わたしも進学を諦めることなく、大学に通うことができた。

就職活動でわたしの第一志望が久我ホールディングスだったのは、当然の成り行きだった。ここしかないとさえ思っていた。
「今のわたしがあるのは貴社のおかげです」と面接では心の底から想いを伝えた。

採用はコネ、とは思いたくない。うちにはなんの権威もないのだから。あえていうなら、両親が会社で築いた信用が後押ししてくれたのかもしれない。
それから四年———わたしは突然、常務に呼び出されて、プロポーズを受けている?

「本気でおっしゃってるんですか?」
おそるおそる口にする。

もちろん、と常務は鷹揚に頷いてみせる。