かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜



ピックルボールという競技がある。
わたしはアメリカに来るまで知らなかったのだけど、こちらではかなりの人気があるという。
肉体を鍛えるスポーツというより、誰でも手軽に楽しめるレクリエーションとして親しまれている。

マンハッタンでも、セントラルパーク内のシティコートにピックルボールのコートが設けられているほどだ。
毎日多くの市民が競技を楽しんでいるのをわたしも散歩をしながら眺めたことはあった…けれど。

その週末の午前中、透さんとわたし、櫂さんが待ち合わせたのは、シティコートだった。

「俺これ、やったことないんだけど」
ベンチで順番を待ちながら、櫂さんがつぶやく。
「テニスならあるけどさ」

さすがウィンブルドンの国から来た人だ。
透さんが「動ける格好で」と指示したので、ポロシャツにチノパン、スニーカーという格好をしている。

「俺もない。つまり条件は互角(イーブン)ということだ」
そういう透さんは、ジョギングやジム用の伸縮性のある素材の、いわゆるスポーツウェアを身につけて、足元はジョギングシューズだ。

決闘なんていうから何事かと案じたら、ピックルボールで決着をつけるという。
「いい年して弟に一発かますというわけにもいかないだろ。かといってこのままじゃ腹の虫が収まらない」