かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

頭を目まぐるしく回転させながら、「辻原です」とぺこりと頭を下げる。
顔を上げると、彼は机から身体を離していた。

「ああ、いきなり呼び出してすまない」
ソフトだけれど深みのある声だ。

まあ座って、とソファを示された。
常務と向かい合ってソファにかける。まだ用件の見当もつかずわたしの緊張は増すばかりだ。

久我一族は美形ぞろいで、なかでも社長の次男である常務は群を抜いていると、よく女性社員の噂になるけれど。
それも納得だった。
驚くほど小さな顔に、切れ長の瞳、通った鼻梁、引きしまった唇、といったパーツが無駄なくおさまっている。

整っていらっしゃる…と見とれてしまいそうになり、いけないいけない、と自分に言い聞かせる。
そんなわたしの様子を彼が面白がっているように感じるのは、気のせいだろうか。
自分を前にした女性の反応には慣れっこ、というような。