かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

「櫂さんは…」
自分の感じたところを言語化しようと、懸命に頭をひねる。
「透さんと同じで、二人ともわたしから見ると、積んでるエンジンが違うの。馬力とかスピードとか性能とか、とうてい及ばないものを持ってて。透さんは目的地を定めて最速でそこに向かって走っているけど、櫂さんは…寄り道を楽しんでいるような…」

わたしの言うことに、透さんが何度か小さくうなずく。
「そこが分かっていればだいじょうぶだ」

透さんに肯定されると、わたしはなんだか嬉しくなってしまう。
子どもの頃に先生に褒められたり、仕事で上司に認められたときのような気分だ。
自分の夫なのに、彼は仰ぎ見る存在なのだ。

透さんはまだなにか言いたげだったけど、残念ながら時間が迫っていた。

「カフェオレうまかった。じゃあ行ってくる」
と慌ただしく飛び出していった。

櫂さんか…
部屋で一人、昨日の彼とのやりとりと、透さんの言葉を合わせて反芻(はんすう)する。

こちらからは連絡するまいと決めた。
あの———人の心の(ひだ)にすうっと指を添わせて、そこを広げてくるような青年には。