かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

「研究が好きなんですね」

「というか正直、他のことに血が沸かないんですよね」
淡々とした口調だ。
「量子コンピューターといえば最新鋭で聞こえがいい。研究することは無限にあって、脳みそを絞るのは嫌いじゃないので。透(にい)ならすぐ、企業と提携しろとか、実用化に直結した研究テーマを選べとか言うんでしょうけど」

透さんの「モラトリアム・キッズ」という言葉を思い出す。
名門といわれる一家に生まれて、最高水準の教育を受けて育った青年。兄たちに劣らず優秀な頭脳をもっており、学問は当たり前のように得意。
容姿にも恵まれ…と手札(カード)は揃いすぎている。
それを切って勝負していく気がないということなのだろうか。

やがて平たい皿に乗せられたココット皿が目の前に置かれた。ココットの表面はきつね色のパイ生地に包まれている。
熱いから気をつけて、と添えられる。
スプーンでパイ生地を崩すと、湯気とともにクリーミーな香りが立ち上って鼻をくすぐった。

熱々のクラムチャウダーをパイ生地とからめて、火傷しないようにふうふうしながら口に入れる。
うーん文句なく美味しい。サクサクのパイと濃厚なスープの相性が抜群だった。さっぱりした生牡蠣の後なので、味覚の変化も楽しい。