かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

「桜帆さんは隠す必要ないでしょう」

返しに困っているところに、折よく牡蠣の皿がサーブされた。
大皿にクラッシュアイスが敷き詰められ、殻を開けた牡蠣がきれいに並んでいる。

さっそくレモンを絞って一つ口に入れる。と、口の中で小さな海が弾けた。
「美味しい!」
口を押さえながら、小さく叫ぶ。

「うまいですね」
櫂さんもご満悦といった様子だ。

美味を共有していると場の空気もほぐれてくる。
「櫂さんは大学院で量子コンピューターの研究をされてるんでしたっけ?」

そうです、とうなずく。
それ以上話に乗ってこない。

「わたしにはよく分からないんですけど、量子コンピュータってスーパーコンピューターでしたっけ、みたいなものでしょうか?」
仕方ないので、こちらから話題を広げてみる。

「よりもさらに次世代、といわれています。まだ理論上の域を抜けきれず実用化には時間がかかりそうですけど」

「早く実用化できるといいですね」

彼が小さく首をひねる。
「時間がかかる、ところがいいんです。いつまでも研究していられるから」