かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

無視するわけにもいかないので、穏便にメッセージを返すことにした。

【お疲れさまです。経理部の辻原です。失礼ですが宛先お間違えではないでしょうか】
緊張しながら送信ボタンをクリックする。

レスポンスは速かった。
【久我です。間違えではありません。辻原桜帆さんに折り入って話をしたいことがあります。ご都合はいかがでしょう】

狐につままれたような気分だ。とはいえこちらに拒否権などない。
かしこまりました、と返すと、その後は手早いやり取りで翌日の17:30に彼の執務室で面談の予約が取りつけられた。

どう考えても心当たりがなかった。
常務からの呼び出しって、よほどの不祥事でも起こした場合だろうけど。
わたしはそんな不祥事を起こせるような立場じゃない。
経理の立場を悪用しての横領…なんてもちろんやっていない。

それに、メッセージの文面は丁重だった。懲戒や戒告のための呼び出しなら、もっと有無を言わせぬ厳しいものになるだろう。