かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

カチャ、とバスルームに通じるドアが開き透さんが姿をあらわした。わたしと同じ浴衣を身につけている。
水気を含んで艶を増した前髪がひたいに落ちている。
水もしたたるいい男とはうまく言ったものだ、と一瞬そんなことが頭をよぎる。

今日は疲れただろう、いえそんな、短く言葉を交わす。

彼は優しく、そして巧みだった。
「おいで桜帆」とうながされる。
立ち上がると抱き上げられた。思いがけない力強さに、呼吸が止まってしまう。

わたしがなんの経験もないことを、まさしく手にとるように分かっていたのだろう。
終始、壊れやすいものを扱うように優しく接してくれた。
ふわりとベッドに降ろされる。

それでも薄闇のなか、シーツの上で組み合わされた手を動かそうとしても、ぴくりともしなかった。
彼はかるく握っているだけなのに。そんなことにも、男性との違いを感じずにはいられない。
親の腕に抱かれていた少女の時は本当の意味で終わったのだと知り、ひとすじの涙がこぼれた。
透さんが指の腹でそれをぬぐってくれる。

そうして初夜は明け、その一週間後、わたしたちはニューヨーク行きの飛行機に乗っていた。