かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

その夜は挙式したホテルのスイートホームに泊まった。

わたしはソファにかけて、広い室内を眺めわたし、ほうと息をついた。
ホテルの趣向なのだろう。贅を凝らしたというより、和を意識した落ち着いた内装だ。
壁をくぼませた飾り棚が設けられ、そこには折り紙細工が飾られている。

衣装を脱いで結った髪を解き化粧を落とすと、大げさでなく身体が軽くなった。先にお風呂を使わせてもらい、ホテル備えつけの浴衣に身を包んでいる。
熱い湯につかって身体のこわばりはほぐれたけれど、緊張と興奮の余韻はまだ残っている。
それにこの後———今、透さんがバスルームに入っているのだ。

結婚に向けての話し合いを重ねる中で、わたしが望むなら関係をともなわない “白い結婚” でも構わないと、彼は言ってくれた。
熟考の末、その申し出を断ったのは自分だ。

いきさつはどうあれ、夫婦となったからには透さんを信頼し愛情を育てる努力をしようと。
彼も同じ気持ちを持ってくれているのだろうか。