かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

顔を上げると透さんと視線がかち合った。

「———お母様とお祖母様に気苦労をかけたくないんだろう」

「はい」
彼の視線をまっすぐ受け止める。
この願いを聞き届けてくれないような人なら。どんな困難があっても、会社を辞して別の道を進もうと決めていた。

それでもわたしは心のどこかで、透さんの返事に期待していた。たとえば、心配は無用だ、などと請けあってくれることを。

「なら二人で努力しないといけないな」

努力…?

「俺たちは恋愛の末にめでたく結婚することになった、と。演技だと限界があるだろう」

片眉をくいと上げてみせるのは透さんの癖のようだ。
演技じゃないということは、えーと。なぜだろう、よからぬことを口にしてしまった気がする。

「そういうことなら末長くよろしく、辻原さん、いや桜帆さん」

彼は笑んでいるが、わたしの顔は固まったままだった。