かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜



一昔前は、お見合い写真を見ただけの相手と結婚、なんてことも珍しくなかったらしい。それでも仲良く添い遂げた夫婦もいたのである。
そうかと思えば、大恋愛で結ばれたカップルが数年で破局ということもままある。
結局のところ結婚は巡り合わせなのかもしれない。

あれから、わたしは透さんに誘われて何度か食事をともにした。
透さんと会話を重ね、自分の心に何度も問い、最後にわたしは彼に一つお願いをした。
場所は初めて食事をした和食料理店の個室を、また押さえてもらって。
畳で正座をして、三つ指ついて頭を下げる。自分の人生にそんなシチュエーションが訪れるなんて想像もしていなかった。

「わたしの母と祖母には、恋愛結婚だということにして頂けないでしょうか」

今の自分にとって一番大切な存在は母と祖母だった。
そして、母と祖母の一番の望みはわたしの幸せなのだ。わたしが愛情ではなく条件で選ばれて結婚すると知ったら、二人はどんなに心配することだろう。
それだけは避けたかった。