かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

わたし辻原桜帆は、26歳のいたって平凡な会社員だ。

大手商社である久我ホールディングスの経理部で働いている。
入社四年目で、仕事にも人間関係にも慣れ、自分なりに業務改善案も出せるようになってきた、そんな時期だ。
目立たなくても、地道に着実にキャリアを積んでいこう、結婚はいいご縁があったら。

———そう未来図を描いていたわたしのもとにある日、社員専用のチャットツールを通じて一通のメッセージが届いた。

【突然ですが、面会してお話したいことがあります。日程の調整をお願いします】
差出人の名を、二度見して確認してしまった。
“久我透” となっている。ウソ、ありえない。
久我透は、我が社の取締役社長の次男で常務の役職にある人物だ。ちなみに長男の久我(いたる)が現在執行役員で、時期社長と目されている。

ともあれそんな上層部が、一社員であるわたしに面会など考えられないことだ。
誰かと間違えて送ってしまったのだろうか。