かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

「新婚早々、一人で日本に残されるほうが辛いんじゃないか?
周りからは放置されてる新妻という目で見られてしまうだろう」

わたし英語全然できないのに。
恥ずかしながら海外旅行に行ったことさえないのだ。もちろんパスポートも持っていない。
いやちょっと待って、まだ結婚すると決まったわけじゃ…

「ニューヨークには、久我ホールディングスのアメリカ法人がある。そこで仕事をしながら、並行してビジネススクールでMBAを取得するつもりだ。いきなり起業はさすがに難しいからな」

展開に付いていけず箸が止まってしまう。わたしはよほど情けない顔をしていたらしい。
透さんが言葉を止めて、ふっと頬をゆるめる。

「この場で答えを出せなんて言わないさ。ただ俺が真剣なことは分かってほしい」

その気持ちは伝わってくる、痛いほどに。
だからこそどうしようもなく、わたしは(おのの)いてしまうのだ。