かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

料亭というには小体(こてい)な佇まいだけど、趣のある外観の店だ。
白壁に犬矢来、軒から下がる鎖樋。狭いながらも灯籠が据えられ前栽が整えられている。

カラリと扉が開いて和服の女性が出迎えてくれた。
カウンターを抜けた奥の個室に通される。中にはすでに彼の姿があった。

わたしを見て、どうもとかるくあごを下げる。

「お待たせしました」
わたしはテーブルを挟んで向かいに腰を下ろした。畳の部屋だけど床を落として足が下ろせる仕様なのがありがたかった。

素敵なお店ですね、と思ったままを口にした。
素人目にも、歳月を経た風格を感じる室内なのだ。

「何度か手は加えているけど、築80年を超えているそうだ」
彼がぐるりと視線を巡らせる。
柱も壁も床の間も、ほとんど往時のままだという。

その視線をぴたりとわたしに戻して「お見合いにちょうどいいなと思って」と静かに告げた。

“お見合い” その言葉に、心臓に針が刺さったようにツキンと痛みが走る。