かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

ないだろうなぁ、とため息がこぼれそうになる。
相手は社長の次男で、実質我が社のトップ3だ。

もし断ったら———解雇はさすがにないだろうけど、会社に居づらくなることは間違いない。
退職に仕向けるやり方はいくらでもあるだろうし。

断る方法は…もし受けるとして…はては、結婚とはなんぞやという根源的な疑問にぶち当たったり。
何一つ答えなんか出ないまま、へとへとになって一週間が過ぎた。
そして今度は久我常務からチャットで食事の誘いが届いたのだ。

誘いというか実質は呼び出しなわけだけど。
翌日、仕事をあがって指定された会社の近くの場所に着くと、手配された迎えのタクシーがなめらかに横付けされた。
彼は店で待っているということなので、一人タクシーに揺られる。
わたしはこれからどこへ連れて行かれるんだろう…とぼんやり思いながら。

車が向かったのは、神楽坂だった。車がやっと入れる小路の奥に停められる。