かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

そんな桜帆がときにまぶしくさえ映った。

櫂の突然の出現にも惑わされることなく、彼のもつ危うさまでも敏感に感じとっていた。
たいていの女性は、櫂の容姿と巧みな話術に骨抜きにされてしまい「あなたの弟って本当にsweetね」と(とろ)ける瞳で言ってくるのだ。
悪かったなsweetじゃなくて、とこちらは憮然とするしかない。

自分に(なび)かない桜帆の賢さが、逆に櫂の好奇心を刺激してしまったようだが。
弟と本気でぶつかり合うなんて、いつぶりのことか———ともあれ、あのモラトリアム・キッズがしゃっきりした目をしてイギリスへ帰っていったのだから、なんらかの転機になったのだろう。

自分が生活のなかで桜帆にできたのは、作ってもらった食事を「美味しい」、やってもらったことに「ありがとう」と伝えたくらいだ。
お世辞は言えなくても、本音なら口に出せる。
桜帆の嬉しそうな顔を見ると、こちらまで嬉しくなった。

気づいたら桜帆は、家の中のことだけでなく、大怪我を負ったヨガのインストラクターのサポートに奔走するようになっていた。
彼女の愛情のキャパシティの大きさに圧倒されながら、同時に自分を振り返る。
仕事にばかりかまけて、なにか大切なものを置き去りにしていなかっただろうか、と。