かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

桜帆は頭のいい女性だった。記憶力がよく、小さなことにも気づき、透が仕事や勉学に集中できるように、少しでも休息をとれるようにサポートに徹してくれた。

連絡が直前になってしまっても、手早く食卓を整えて待っていてくれた。
家に「お帰りなさい」と言ってくれる人がいる安心感。

品数を揃え栄養バランスのいい食事を作ってくれたが、冷凍食品を活用するなど、食材を無駄にしない工夫が見てとれた。
月々のクレジットカードの明細にはざっと目を通すが、無駄遣いがないことにいつも感心した。
だてに経理部だったわけではないというべきか、経済感覚が非常に堅実なのだ。

本人は苦手意識を持っているようだが、英語の上達も早いほうだ。ニュース番組を聞くなど地道な努力が実っているのだろう。

それよりなにより、桜帆の芯の強さとでもいうべきものに、透は驚かざるをえなかった。

いきなり外国に連れてこられて心細くないはずがないのに。
強がるでもなく、日に日に順応してゆくのだ。

今はネットがあるから、日本の家族や友達といつでも連絡がとれる。一昔前はエアメールと国際電話しかなかったから、もっと大変だったよね、と屈託なく語った。
ヨガのスタジオレッスンのメンバーとお茶をした、アパートのエレベーターで乗り合わせた人と会話ができた、と常に良いことを見つけ、陽の方向に顔を向けている。