かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

彼女は両親とも久我ホールディングスの社員だそうですが、と投げかけてみた。

ええその通りです、と福田はこくこくとうなずいた。福田は辻原桜帆の父親と一緒に働いたことがあるという。
「誰からも好感を持たれる人でしたね。他部署との折衝でも、彼がいると円滑にいくような。ですから亡くなったときは本当にショックで…。みんなが「いい人に限って…」と肩を落としたものです。
わたしにも娘がおりますので、辻原を見ているとたまに重ねてしまうと申しますか。一生懸命すぎるくらいなので、もう少し肩の力を抜いてもいいんだよと言ってやりたくなるときがあります」

大きな痛みと悲しみを抱えながら、ひたむきに働く一人の女性。

自分は運命論者とはほど遠いと自覚している。
人智の及ばない大きなものに人生が決められているなんて、あってたまるかと。
だからこそ自分の力でどこまでできるか、世界を舞台に試してみたいのだ。

ただ———ごく稀に、理屈を超えたひらめき、天啓とでも呼ぶものに出会うことがある。
経験や直感や巡り合わせが重なって訪れる、強い確信。今までそれを信じて外したことはなかった。
ということは今回もそうだろう。

彼女、辻原桜帆しかいない。