かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

差し出された資料は、入社時の履歴書だった。4cm×3cmの写真の中で心持ち口角を上げた表情でこちらを見つめる女性。

目鼻立ちは楚々として整っているが、輪郭が丸いのでどちらかというと童顔の部類に入るだろう。
可愛らしい、おとなしそう、と中年男性の面接官に好印象を与えるタイプだ。

小倉はさらに、彼女が両親ともに久我ホールディングスの社員で社内結婚をした、いわば “生え抜き” であると続けた。父親は早くに亡くしており、その際には会社として遺族への見舞金も募っている。そのため辻原桜帆の会社への忠誠心は相当に篤い、と。
恩義を感じているからには、透からの申し出を拒みづらいだろう。
経理部における仕事ぶりも文句なしで、気が利くと評判だ。

念のため透はこれもこっそりと桜帆の上長にあたる経理部の部長とも面談した。
表向きは社内コミュニケーションの監査という名目だ。福田という経理部の部長は物腰のやわらかい穏健なタイプだ。それでも長年経理部にいるだけあって観察力はなかなかのものがあった。
若手社員とコミュニケーション度はどのような、と話題にしてさりげなく辻原桜帆の名前を出した。

「辻原ですか? ええ、優秀です。学力が高いというより察しがいいタイプですね。こちらの言うことをすっと読み取ってくれるので、仕事がしやすいです。協調性もあるし、いると助かりますよ。どこの部署にいってもやっていけるんじゃないですかね。でも経理部から取られたくないなあ」

取ってしまうかもしれない。異動とは別の形だが、とすでにそんなことが頭をよぎった。