かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

夫婦として一緒に暮らして、自分の生存確認と家事を担ってもらう。
任期(?)を終えて別れることになっても、相手が一生困らないだけの補償はするつもりだ。

さて、女性社員にそれを受けてくれる人材はいるだろうか。
透は密かに社長室長の小倉という人物に相談した。社内事情に精通しており、万事に抜かりなく口が固い男だ。

家族が納得するような相手で、契約としての結婚を受け入れてくれる女性が社内にいるだろうか。
透の問いかけに小倉は眉根を寄せたが、つべこべと言葉を並べることなく「探してみましょう」とだけ回答した。

十日ほど過ぎたところではたして、一人だけもしかしたらという社員がいる、と報告されたときには意外さが先に立った。
一人だけ、ということは小倉は相当シビアに選考したのだろう。ふるいにかけられて残った、たった一名。

誰だろう、どんな女性だと、がぜん興味がわいてきた。見合い相手の釣り書きなどは見るのもうっとうしいだけだったのに。

経理部の辻原桜帆、二十六歳。
知らない名だが、きれいな名前だなとまず感じた。

「彼女は久我家と縁戚関係にあります」
と小倉は淡々と説明した。戸籍でやっと辿れるというレベルだが母親の旧姓が久我なのだという。
「ですから身元は確かです」