かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜

彼の考えはうっすらと分かってきた。
彼、久我透は何にも頼らず自分の力で未来を切り開きたいのだ。
そのために、しがらみのない結婚相手を求めている。

辻原桜帆は、両親ともに久我ホールディングスの元社員で、母親は久我本家の遠縁でもある。
氏素性は確かだが、父親はすでに亡い、いってしまえば無力な一人の女性だ。

「…わたしは、都合のいい相手ということでしょうか」

「その表現は語弊(ごへい)があるな」
彼が片眉をちょいと吊り上げる。外国人を思わせる動かし方だ。
「言うなれば、俺が求める条件を完全に叶えてくれる女性だ。正直、キミ以上の相手は望めない」

その言葉に不覚にも、気持ちがくすぐられるのを感じる。しかし転職スカウトのような台詞だ。

「ですが、常務…」
言いかけるわたしを、人差し指を立てて彼が制した。

「あ、役職呼びはやめよう。社内ルールにもなってる」