(え、これ……なに。ここは……)
脳裏に浮かんだそれは、俊輔と雨宿りしながら別れ話をした時の光景だった。
雨の中バス停の下で私と俊輔は、すぐそばの自販機で買ったコーヒーの缶を持ったまま俯いている。
(大学生の時の……記憶……)
まるで映画でも見ているかのような錯覚に陥る。なぜなら《《今の私》》の視界は、大学生の私と俊輔を少し離れた場所から客観的に見ているからだ。
──『早紀は勝手だよな』
離れているのに、俊輔の声が耳元で聞こえる。
久しぶりに聞く彼の声に私の心がぎゅっと苦しくなる。
大学生の私が俊輔を見つめると声を振るわせる。
『本当に好きだったよ。でも……ごめんね、俊輔』
──『謝るなら……いや、何でもない』
この時の私は彼の続く言葉はわかっていた。
それでも一度決めた覚悟は揺るがなかった。
まだ大人になりきれてなかったから。
夢と俊輔との未来を両方選べるほど、器用ではなかった。
俊輔は缶コーヒーをぐいっと飲むと、私をまっすぐに見つめる。
──『俺さ……諦め悪いんだよね』
何を言いたいのか意図がわからず、首を傾げた私の頬に俊輔が触れる。
──『もしさ……もし、また会えたら、その時はもう一回、恋しよう』
そして俊輔は無理矢理、私に笑顔を向けると、雨が止むのを待たずに駆けていく。
『また』を信じているのか、振り返りもせず、雨の中を走っていく。
一人残された大学生の私は彼の後ろ姿が見えなくなると、雨音に紛れるように声を上げて泣いていた。
(忘れてたけど……これは私の思い出だ……)
そう、確信したときだった。
身体がピクッとと跳ねて、私の意識が不思議な力で引き戻される。
「……あれ……」
目の前は喫茶店の中で、手元のコーヒーは僅かに冷めている。
(今の……何……?)
うたた寝したわけでもなく妄想でもない。
すごくリアリティのある映画を見ていたような、何ともいえない感覚だった。
「また……会えたらか」
どうして忘れてしまっていたんだろうか。
いや、忘れていたのではない。
諦めていたからだ。
『また』会えるなんてことはない。
二度と私と俊輔の道が交わることなんてないと……。
──カランッ



