雨宿り喫茶で初恋を

※※

雨宮さんについて数分歩けば、店の目の前に辿り着く。

「喫茶……『おもひで』?」

「えぇ。知り合いから引き継いだ店なんです」

私は視線を上に上げると店をしげしげと眺めた。30年以上は軽く経っていそうなアンティーク感満載の外観に、年季の入った木彫りの看板がドアにぶら下がっている。

(レトロでおしゃれだな)


「さぁ、どうぞ」

「あ、はい」


カラン、というドアベルの音を聞きながら店内へ足を踏み入れる。

するとすぐにコーヒーのいい匂いが鼻を掠めた。店内には誰もいない。

「ご覧の通り、貸切なので。どこでも好きな席にどうぞ」

そう言うと雨宮さんは、奥からこちらに歩み出てきた黒猫を抱き上げた。

「わ、可愛い」

思わず声を上げた私を見ながら黒猫がニャーンと鳴く。

「うちの看板猫なんです」

「そうなんですね。この子の名前、なんて言うんですか?」

「マメです」

「え?」

「一応、コーヒーが売りでして」

「もしかして……コーヒー豆とその色、からですか?」

「正解です」


私がクスッと笑うと雨宮さんが切長の目を細めた。

そして同時にマメが雨宮さんの両腕をすり抜けると窓際の席に駆けていき、椅子に飛び乗り丸くなった。


「私、あそこの席にします。あとそのお勧めのコーヒー頂いてもいいですか?」

「それは構いませんが……何だか押し売りしてしまいましたか?」

「いえ、そんなことないです。可愛い猫ちゃんを見ながらコーヒーを飲めるなんて癒されるなぁって」

これは心からの本心だ。雨宿りしながら、俊輔との思い出を鬱々と思い出すよりもよっぽどいい。


「では、すぐにご用意致しますね。お砂糖はいかがなさいますか?」

「ブラックで大丈夫です」

「承知致しました」