雨宿り喫茶で初恋を

──『早紀(さき)は勝手だよな』

雨音と一緒に俊輔の掠れた声が蘇る。

俊輔は地元の小さな不動産の跡取り息子だったため、私の上京を知ったとき、遠距離恋愛は嫌だとすぐに反対した。

言葉に出さないだけで俊輔が将来を見据えて交際してくれていることも分かっていた。

でも私はどうしても出版社に就職して編集者になりたかった。

そこまで拘った理由は、私はずっと小説家になるのが夢だったから。

長年、公募やコンテストに出しても中間審査すら通らず、残念ながら私自身に小説家としての才能はないことを痛感した。

たまたまアルバイトで、ある公募の下読みをした際に、客観的に色々な作品を読む中で、不思議とその作品の良い点、悪い点の両方が見えることに気づいた。

そして、小説家としてではなく、編集者として作家さんと面白い作品を創り上げたい。

そう思った私は、片っ端から出版社を採用面接を受け、今の大手出版社の就職を勝ち取った。
今は複数の作家さんを担当しながら、書籍化に向けて奮闘する日々だ。


「欲張りだよね」

別れたことに後悔はないはずだった。それほどあの時は夢を実現したくて一生懸命だったから。

けれど仕事が充実すればするほどに満たされていくのかと思えば、現実は違った。時折一人きりになれば、ふいに寂しさが襲う。

心が彼を求めて苦しくなってしまう。

特に雨の日は──。