「いつ、学校来たの?いつ、彼女と?」

母親の言葉を遮るような、慌てた声。
それに合わせる、向こう側。
大きく空いた、ふたりの溝。

『彼女……あ、氷室さんのこと?凛空くん、お友達だったの?』

戸惑った。動揺した。隣で座っていて、感じた。
だから、誉は微笑んで頷く。

友達だ。友達になってあげて欲しい。
でも、凛空は自分は相応しくないとか考えている。

「……友達、だよ」

『そうなの。彼女にはね、とても親切にして頂いて。2週間くらい前のことなの。……そう、だからあの時、別れ際に名乗ったら、驚いていたのね』

くすくす、と、聞こえてくる笑い声。
泣きそうな、凛空の横顔。

「……お母さん、体調崩してたんだ……?」

『えぇ……でも、大したことじゃないわ』

「もう、大丈夫……?」

『えぇ…………ごめんね、凛空くん』

「お母さんが元気になったら、別に良いよ。わざわざ来てくれたのに、気付かなくてごめんね。今度の休みは」

『違うの。そのことじゃなくて……凛空くんが、謝ることなんてなくて。ずっと……ずっと、ごめんなさい……』

「何言ってるの。お母さんが謝ることもないよ。……あんなことがあって、普通でいられるわけが無い。だから」

『……それでも、私はあなたを守らなくちゃいけなかった。母親なのに。あなたのことも傷付けられて、私、怒らなくちゃいけなかったのに』

「お母さん……」

『…………その学校で、あなたが楽しそうに笑っていてくれて、嬉しかった。弱くて、体調は崩しちゃったけど、それでも』

泣いている声。精一杯な、母親からの言葉。

『ごめんなさい、凛空くん……謝って済む問題じゃないけどっ、私』

「お母さん」

凛空は優しい声で。

「俺、お母さんの子どもに生まれてこれて幸せだよ。……だから、そんなに謝らないで。これから、いっぱい話をしようよ」

『もちろん……いっぱい、お話したいわ』

─……きっと、それは夜が明けるように。

電話が切れたあと、凛空は泣いた。
声を押し殺すように、片手で顔を覆って。
それでいて、誉の服は離すことはなくて。