『─……凛空くん?』
周囲が静かだから、漏れ聞こえる向こう側。
離れておいた方が良いな、と、距離を置こうとすると、服を掴まれ、誉は逃げ遅れる。
「(何故……?)」
口パクで尋ねると、
「(いいから)」
と、返される。
「……」
まぁ、本人が良いと言ってるならいいかと開き直り、誉は凛空の傍に座った。
その手が微かに震えていたなら、拒絶なんて出来るわけもなく。
(俺って、優しいよな〜)
なんて自惚れながら、スマホを開くと。
『お兄ちゃん!?祇綺に聞いたよ!私と凛空くんのデートって何!?』
と、いう文言から、怒涛のメッセージ。
─……一旦、それを見なかったことにしようと画面を消し、誉は凛空の様子を見ることに。
後が怖いが、ずっと連投されるメッセージには付き合ってられないので、後で大人しく怒られる覚悟を決めて、スマホは自分のベットを目掛けて、放り投げておく。
「……お母さん」
『なあに』
優しい声。凛空の名前を呼んでから、暫く沈黙が流れた後、学校のこととかルームメイト(つまり、誉のこと)のこととか、色々な話を、言葉をゆっくり必死に選ぶように、紡がれる心地良さ。
それを無言で聞いていた凛空が呼べば、言葉は止まり、また、優しく待つ時間。
穏やかで、優しく、凛空に足りなかった……。
『…………遅いことは、わかっているの』
凛空は何を言っていいのか、わからないのだろう。不安で、迷子のような横顔。
悪いとは思いつつ、凛空のことを調べる時に知ってしまった、家庭環境。


