「……俺が、彼女を好きだと言っても?」
「大歓迎だ。実を結べば、俺の弟になるな」
「それは複雑だが」
「何でだよ!!」
誉が突っ込むと、彼は笑った。声を上げて。
口元を押さえて、笑う姿は年相応で。
「─というわけで、これやる」
誉はそのまま、本日渡す予定だったチケットを渡した。
「何だこれ」
「水族館のチケット〜」
「何で俺に」
「葵咲が好きなんだよ。水族館」
「……まさか?」
「そのまさか。一緒に行ってきてあげて」
「は?いやいやいやいや、お前が行けよ」
「婚約者を置いて?わざわざ?─やだよ。確かに葵咲は生まれて初めて愛した異性だけど、今は断然、婚約者が大切だし。それに、何でこの年齢になってまで、殆ど双子みたいな妹と一緒に水族館に行くんだ?」
「……いや、でも、チケットもうひとつ取って、お前と婚約者と彼女で行っても」
「馬鹿言うな。妹の前でイチャイチャできるか」
なお、全て本音である。
誉が真剣にそう言うと、凛空は戸惑いを隠せない顔で。
「でも俺、今度の休みは」
「お母さんに会いに行くんだろ?問題なければ、葵咲も連れて行ってあげて。どういう縁かは知らないけど、もう一度会いたいって、向こうから連絡来てるらしくて、でも、お前に相談するには聞きづらくて、戸惑ってたから」
これも、真実の話である。
「……お母さんと彼女が?」
「1件の後、葵咲が学内で具合崩していたところに出会したらしいんだ。その時に話し込んで、仲良くさせてもらったって」
「……え、それ、いつ」
「お前が電話で苦しそうで、思わず会いに来たけど、俺と楽しそうにしていたから〜って、帰ろうとしていたんだと。葵咲が見掛けて、介抱したらしい」
瞬間、スマホを取り出した凛空。
珍しく俊敏な姿に笑いそうになりつつ、誉は声を殺して、見守ってみた。


