「……お前、自分のことが嫌いなのか」

「え?」

「いつも他人事のように、自分を語ってる」

誉がそう言うと、

「自分の価値が分からないだけだよ」

と、凛空は笑った。

その嘲笑のような笑顔はどこか寂しくて。

誉は思わず、口にしてしまう。

「でも、葵咲のことは好きだろ」

「……」

「お前、俺の妹を見る時だけ、一等、優しい目をしてくれている」

「……俺、そんなにわかりやすい?」

「というより、お前といると、普段よりも葵咲の表情が晴れやかで可愛くなる気がする。お前が多分、大切に扱ってくれているかな、と」

「そんなこじつけみたいな」

「こじつけじゃないぞ。俺が葵咲の貼り付けたような笑顔じゃない、心からの笑顔を見たの、何年ぶりだ?」

これは、本当のことだった。
貼り付けたような笑顔を浮かべて、隙を見せないように振る舞うあいつは不得意の癖にクソ真面目なせいで、いつも疲れた顔をしていた。

「何度も言うよ。ありがとう、凛空」

「……」

「お前は自分の存在価値に悩んでいるみたいだが、俺達からしたら、お前は最高の友達だ。亜希が珍しく、お前を気に入ったのもそういう空気感かもな〜」

「……誉」

「俺たちとって、お前みたいな存在は本当に貴重!だから、価値は分からないままでいいから、せめてこれだけでも覚えておいて。俺達がお前のおかげで、楽しいと思えていることを」

「……」

「言っておくけど、俺達幼なじみの空間に入って、落ち着いていられるの、お前くらいなもんだぞ〜大抵、葵咲に落ち、亜希に騙され、杜希に利用されるのがいつものこと」

実際、来る者拒まずな誉たちの元にはこれまでも多くの人間がすり寄ってきたが、どれも様々な理由で惨敗している。

目の前の凛空に出逢うまでは、家の為に結婚をする気満々だった葵咲は男達にどれだけ想いを告げられようと、答えることはなく、一部には逆恨みをされることもあって。

男性恐怖症にもなりかかっていた日、見つけた初恋。

それを大事にしてあげたくて、誉はここに来た。