「なんでかな、誉が何かしたのかなと思ってたけど、君の、葵咲を見る目が優しかったから」

「…………そう」

「ねぇ、好き?それだけ知りたくて」

普段はとても大人しいし、無口なのに、何故か今はよく話す。

そんなの、答えは決まってる。
でも、胸の奥にある欲望が全て漏れてしまいそうで、凛空は口を開くことが出来なかった。

「─そっか」

「え?」

「その顔でじゅうぶんだよ。─葵咲は良い子。強く見せるのが得意な子。でも、本当はとても弱い子だから。泣かせないでね、凛空」

「……いや、付き合ってないし」

彼の空気に呑まれそうになって、凛空は慌てて訂正した。

「いや、付き合ってなくても、友人として」

「それは勿論……というか、彼女には誉がいる」

「でも、誉には別に婚約者がいるよ?聞いてないの?」

「それは聞いてるけど……」

「誉はいい加減に見えるけど、婚約者一筋だよ。それに、そもそも葵咲とそういう関係になること自体有り得ないよ。だって、ふたりは─……」

「─おっ、ここにいたのか!」

……なんとも、間が悪い。
その声の主は授業中にも関わらず、姿を現し、凛空たちを目掛けて駆けてきた。

「珍しいな、亜希が人に興味を持つなんて」

「興味っていうか……うん、興味、かも?」

「ハハッ、我が従兄弟殿は相変わらずだ」

肩を組んで笑う楽しそうな誉は、

「凛空、葵咲がな、今日のお昼はおにぎりとちょっとしたおかずだって」

「?、ああ……」

よく分からない報告をしてくる。
それがどうしたというのか。

「ったく、鈍いな。お前が食べないっていう割には、凄く美味しそうにサンドイッチ食べてたから、葵咲がお前の分も作ったんだよ」

「えっ」

「食べてやってくれ。あいつ、料理が好きなんだよ。人が食べている姿を見るのが好きで、だからさ、もし、好物があるならリクエストしてやって。俺らは……というより、俺は幼い頃からずっとだから、もういい加減、リクエストも思い付かないし…っ、痛い!?」

誉が急にしゃがみこみ、後頭部をさする。
見ると、誉の後を追ってきたらしい杜希が拳を握りしめ、そこに立っていた。