「信じるわけないだろ。そんなもの」

そう言うと、奴は。

「そうか」

と、微笑む。その表情が、何を考えているのか。

「あー、お前がダメなら誰に頼もうかな〜」

椅子でクルクル回りながら、こちらを見てくるこいつは本当になんて鬱陶しくて、うるさいのか。

わずか1分前のことを既になかったことのように扱って、話を戻すこの男。

「…………チッ、わかったよ」

「マジ?やった〜!」

……すごく嫌だが、あまりにも視線が鬱陶しい。
しかも、最近、何故か今まで見て見ぬふりしていた教師陣の目が厳しい。

ここに帰らず、他の場所に泊まることも厳しそうだし、何故かそんな欲も湧いてこないし。

『天宮さん』

そうやって笑う彼女から貰ったミルクティーを、今も飲めないなんて、そんな笑える話。

「俺の粘り勝ち〜」

(……椅子を蹴飛ばしてやろうか)

彼女と目の前のこの男がどんな関係なのかは知らないし、知りたくもない。

知ってしまった時、もし、それが自分が考えているものであったなら、自分は自分を保てなくなるだろう。

「ほら、あげる!」

「いや、個人情報……」

「俺のだし!一緒に見よ」

「……」

─こんなこいつの一言に変な気分になるなんて、本当、最悪でしかない。

この何も考えていないような脳天気な笑顔の裏側で、この男は何をしてるのだろうか。

「あ〜可愛い」

にこにこと笑いながら、ページを捲る。
どのページにも、彼女が主体で写ってる。

それこそ、産まれた時から。

「可愛いだろ。可愛いよな」

「……ああ」

本当に変な気分だが、知らない彼女を見れるのは正直、嬉しい、なんて。

「─誉」

「ん〜?」

初めて呼んだ名前は、何故か口に馴染んだ。
彼は当たり前のように返事をする。

「明日から、点呼まで勉強な」

早いところ、この関係を終わらせたい。
勉強を教えるなんて、やったことも無いけど。

「は〜い☆」

まあ、良い暇つぶしにはなるだろう、と、凛空は思った。