そんな中、再び土曜日がやって来た。
唯一、先輩とバイトが被る曜日……きっと、アレのことを言われるであろう。
いつもは嬉しいのだが、今日は憂鬱でいっぱいだ。
午前中は特別講義があって、散々だったし。
まぁ、そんなことは前座に過ぎない。
今、すっごくドキドキしている。
だが、この正体は分からない。
緊張なのか、不安なのか。
はたまた恐怖なのか。
あのことが、私をさらに惑わせる。
「燈? 大丈夫?」
隣を歩く友達に話しかけられ、ふと現実に戻る。
幼なじみで私の唯一の友達。
一緒に本屋へと向かっていたんだった。
先輩のことで頭がいっぱいで、つい上の空になってしまう。
「また先輩のこと考えてたんでしょ?」
「ち、違うもん! からかわないでよ~」
私は優しく友達の背中をポンと叩いた。
「あっ、そうだ。課題って終わった?」
「火曜日のなら、もう終わったよ」
「お願い! ちょっとだけ見せて! 明後日、パフェ奢るから……ね?」
「もう~絶対だからね?」
またスイーツかぁ~太っちゃうかも……
でも、いいよね? 日頃のご褒美ということで。
それに、糖分は頭の回転にも良いもん。
何気ない会話をしながら商店街を歩いていると、あっという間に本屋に着いた。
ひとりの時よりも早く感じる。
バックヤードに入って、エプロンを着けた。
あれ? 先輩の姿が見当たらない。
いつもなら私より早く来て、ここの机で作業しているのに。
パソコンと向かい合って……
少し寂しい。
せっかく、本を貸そうかなって思っていたのに。
静寂に包まれた本屋だったが、私の高鳴る鼓動のせいで賑わっているように思える。
すると、事務所から出てきた店長がレジにいる私に声をかける。
「燈ちゃん。今日、美琴くん風邪で休むって」
えっ。先輩、今日バイト来ないの?
「そ、そうですか……」
でも、先輩のアドバイスが貰えないということは、このドキドキがまだ続くってこと。
早く鳴り止んで欲しいのに。
こんなんじゃ、身体が持たないよぉ。
「……両替をお願いできますか?」
お客さんの声でバイト中だと気付かされ、気を引き締める。
私の目の前にいたのは、この前の両替おじさんだった。
しかし、この前と違ってリュックをしているせいか、より一層オタクレベルが増しているような気がする。
「は、はい」
私の返事を聞いて、おじさんがリュックから財布を取り出し、大量の50円玉をレジカウンターに出した。
数えるのが凄く面倒になってくる。
なんで、ここで頼むんだろう? なんて考えながら、きっちり20枚あることを確認し、両替をする。
手渡そうとすると、私の手を握るようにしておじさんが1000円札を取ろうとする。
「ひっ!」
我慢できずに、悲鳴が漏れてしまう。
や、やっちゃった……
「……頑張ってね」
ニコっと笑って、おじさんは退店していった。
な、なんだろう……凄く気持ち悪い。
後で、手洗っておこう。
