君の未来に、ぼくがいたこと。

夏休み明け目前の朝。
陽翔は病院のベッドから、静かに立ち上がった。
胸の奥には、まだ痛みが残る。でも、顔には笑みを浮かべていた。

「……帰ろう。俺の“場所”に。」

母の支えで病院の玄関を出ると、蝉の鳴き声がまるで祝福のように響いていた。



家に帰ると、玄関には父が立っていた。
「……よく頑張ったな、陽翔。」

陽翔は小さく笑って頷く。
「うん。ありがとう。……まだ、やりたいことがあるから。」

その夜。机に向かった陽翔は、ぐしゃぐしゃになったままの脚本の束を見つめていた。

「……時間は、待ってくれない。だから俺は、止まっていられない。」

そう呟いて、陽翔は一気にペンを走らせた。
ふと、胸の奥に鈍い痛みが走る。だけど――

「大丈夫。こんなの、いつも通りだ。」

痛みに顔をしかめながらも、誰にも頼らず、誰にも言わず、陽翔はひとりで戦っていた。



翌日、学校に戻った陽翔に、結月と凛空が笑顔で駆け寄ってきた。

「陽翔!!」
「よかった、無事だったんだね……!」

「うん。ちょっと疲れてただけだよ。……心配かけてごめん。」

陽翔は笑顔を作った。
でも――
その笑顔に、結月は小さな違和感を覚えた。

(無理してる……? なんか、前より細くなった気がする……)

「ねえ、ほんとに大丈夫なの? 顔色……よくないよ?」

「大丈夫だよ。結月、俺のことなら平気。……それよりさ、映画の脚本、あとちょっとで完成なんだ。」

その目はどこまでもまっすぐで、どこか遠くを見ているようだった。

「……そっか。じゃあ、私も手伝う。」

結月はそれ以上何も言わなかった。ただ、隣に座り、そっとノートを覗き込んだ。



夜。陽翔は一人で脚本を打ち直しながら、深く息を吐いた。

「あと少し……絶対に、完成させる。」

強がりも、孤独も、全部抱えたまま――
でもその胸には確かに、“夢を生きようとする”火が灯っていた。