逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





「あのね、レイラ。今までなかなか2人きりになれなくて、きちんと言える機会がなかったから言えなかったのだけれど、ずっと私はアナタにお礼が言いたかったの。本当にありがとう」



まさに女神のようなレイラ様に心を奪われていると、レイラ様はそんな私に、変装する為に変えている赤い瞳を細めて、お礼を言った。

まさか私なんかにお礼を言ってくださるとは。



「…わ、私はアナタにお礼を言われるようなことはしておりません。私はただ空席だったアナタの席につき、その恩恵を受けていただけで…」

「いいえ、違うわ」



レイラ様からのお礼があまりにも恐れ多すぎて、否定の言葉を並べる。
すると、そんな私の言葉をレイラ様が優しく遮った。



「私が行方不明になって、おかしくなってしまったお父様とお母様が、それでも今普通でいられるのは、アナタが私の代わりをきちんと務めてくれていたからだわ。
それにアナタはただ私の代わりとしてその恩恵を受けるだけではなく、努力をし、私としてこの国一の令嬢でいてくれた。アナタのおかげで私の評価は行方不明前と何も変わらないのよ」



いつの間にか隣の席まで移動していたレイラ様が私の手を両手で優しく包む。



「ウィルとセオもアナタがいたから寂しくなったのよ?」



それからそう言うと、レイラ様は慈悲深い笑みを私に向けた。