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私たちが観にきた流行りの演劇とは『だからこの恋心は消すことにした。』というタイトルの魔法使いと秘書官のラブストーリーだった。
同じようで人種も価値観も違う、魔法使いの男性と秘書官の女性。2人はストーリーの中で互いに惹かれ合い、時にすれ違う。
そのすれ違い方にハラハラさせられたが、最後はとても感動的なもので、涙なしでは見られないものだった。
あまりにも素敵な終わりに思わず泣いてしまいそうになったが、私はそれをグッと堪えた。
「…ぐすっ」
涙を堪えていると、右の方からレイラ様のすすり泣く声が聞こえてきた。
全く同じタイミングで私も泣きそうになっていたので、レイラ様のその涙に心の中で共感する。
泣けますよね、わかります。
「…アイリス姉さん。ほらハンカチ」
「あ、ありがと、セオ」
レイラ様に共感していると、今度は優しげなセオドアの声とそんなセオドアにお礼を言っているレイラ様の声が聞こえてきた。
「…」
あ、やっぱりダメかも。
レイラ様の涙につられて、私からも堪えていた涙がほろりと流れる。
我慢するつもりだったが、やはり耐えられなかった。
「…っ」
すごく良かった、と静かに泣きながらも、ワンピースのポケットからハンカチを出そうとする。
だがしかし、それは私の右隣にいたセオドアによって、止められた。
「こんなところで泣くなよ」
迷惑そうにそう言いながら、セオドアが私の目元に溢れる涙を自身の指で拭う。
私と同じように泣いていたレイラ様にはあんなにも優しい声音で接していたのに、私との温度差が酷すぎる。
レイラ様を愛しすぎている。
「…レイラ、はい」
そんなことを思っていると、私の左隣にいたウィリアム様が私にそっとハンカチを渡してくれた。
私はそれを「…ありがとうございます」とお礼を言い、受け取った。



