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劇場内の準備が整い、ついに入場が始まる。
ウィリアム様が私たちに用意してくれた特別席は個室のようになっており、たくさんの鑑賞席が並ぶ一般席の上から、舞台を観られるようになっていた。
そしてこの落ち着いた空間にはきちんと4つの席があった。
「さあ、どうぞ、レイラ」
ウィリアム様に手を引かれ、まずこの部屋に入ったのは私だった。
私は何となく目に入った左端の席に腰を下ろす。するとそのままウィリアム様は私の右隣に腰を下ろそうとした。
したのだが。
「ちょっと待ってください」
それをセオドアが冷たい声で制止した。
「姉さんの隣には僕が座ります。ですからウィリアム様はそこには座らないでください」
こちらにゆっくりと近づいてきたセオドアが、そこから動くようにと、ウィリアム様を促す。
だが、しかしそんなセオドアの言うことなどもちろんすんなり聞くウィリアム様ではなかった。
「レイラの隣に座るのは婚約者である俺だよ」
「違います。家族である僕です」
にこやかだが、どこか目の笑っていないウィリアム様と、冷たい表情でウィリアム様を睨むセオドアの間にギスギスとした空気が流れる。
何と嫌な空間なのだろうか。



