彼女は俺以外を選ぶ自由を得たのだ。
彼女が、リリーが、俺ではない誰かを選ぶだなんて耐えられない。
この6年で俺は彼女を愛してしまった。
そしてそんな彼女に救われてきた。
6年前、彼女はどんな俺でも受け入れるしかない、俺だけの哀れで哀れで可哀想な完璧な婚約者になるしかなかった。
俺は、そんな彼女を見て、ずっとただただ安堵していた。
彼女の存在こそが、完璧ではない、本当の俺を肯定し続けてくれた。
だからこそ、俺は俺であり続けることができたし、自分を殺さずにすんだ。
けれど、これが成立しているのは、彼女が俺よりも立場が圧倒的に下だったからだ。
俺やシャロンに望まれる完璧な令嬢になる為に、教養も権力も何もない彼女は俺に従うしかなかった。
この6年、彼女は本当によく努力したと思う。
何もできなかった没落寸前の男爵令嬢が、気がつけば、シャロンが望む、この国一のご令嬢にていたのだから。
シャロンが彼女を手放せば、どの家門も彼女を欲しがるほどの優秀さを今の彼女は持っていた。
『完璧でないお前なんかに価値はない。常に完璧であれ』
幼少期から呪いのように吐かれ続けた言葉。
ずっとずっと心の奥底で囁かれ続けた言葉に俺は笑う。
何と嘘みたいな呪いなのだろう、と。
完璧でなくてもいいのだ。
完璧でなくても、彼女なら俺の傍にいてくれる。
どんな俺でも彼女なら俺を肯定してくれる。
そうしなければならないからだとわかっていても、その事実が俺を安心させる。
そしてその事実がたまらなく嬉しくて、俺はたまに約束をすっぽかすなど、彼女を試すようなことをした。
だが、そんなことをしても、彼女は俺を見捨てない。
いつも少しだけ怒って、それでも俺を見つけて、文句を言うだけ。
そんな彼女が俺は愛しくて愛しくて仕方ないのだ。
完璧ではない俺を変わらず、ありのまま受け入れる彼女に何度本当の俺が救われてきたことか。



