「違うよ?俺が婚約しているのはリリー、君だよ」
「…え」
ウィリアム様は私の言葉をきっぱりと笑顔で否定した。
わ、私?
本当に私なの?
「助けてあげるって言ったでしょ?君はもう男爵家のリリーに戻るんだよね?だったらその男爵家の何も持たないリリーと結婚してあげる。そうすれば、例えアルトワのレイラじゃなくなっても君に新たな価値ができる。公爵夫人というね」
未だに状況をうまく飲み込めていない私に、ゆっくりと丁寧に何が言いたいのか説明をするウィリアム様に、私はますます首を傾げる。
ウィリアム様の言いたいことはわかった。
以前私を〝助けてあげる〟と言ったウィリアム様だが、助けるとはこういうことだったのだと。
レイラ様ではなくなり、価値のなくなった私に新たな価値を自分と結婚することによって与えてくれるのだと。
だが、疑問しかない提案なのだ。
ウィリアム様はレイラ様のことがとても大切なはずだ。
毎日毎日レイラ様に会うためだけにわざわざアルトワにやってきて、仲睦まじく会話されている姿を見れば、2人が互いを大切にしていることなんてわかる。
レイラ様が現れる前は気まぐれにしかアルトワに来ず、基本私をシャロンに向かわせていたので、ウィリアム様の変化はわかりやすいのだ。
さらにレイラ様はこの国の誰もが認める完璧なご令嬢で、シャロン公爵家やウィリアム様が求める婚約者としても申し分ないお方。
条件を満たす大切な人とこそ、結婚したいだろうに、どうして私を助ける為に私と結婚してくれるのだろうか。
この表向きだけは完璧なサイコパス野郎はそんなにも高尚なお方だっただろうか。
「君にとって悪い話じゃないでしょう?よく考えていい返事を聞かせてね、リリー」
ふわりと微笑むウィリアム様に私は怪訝な顔をせずにはいられなかった。



